2010-09-18

支援の旅(21)在宅訪問1

8月16日:ダナン市の枯れ葉剤被害者の貧困家庭3世帯に、最上級のお米30キロずつと金一封をお贈りしましたが、これは三島ワイズメンズクラブさからの寄付金を使わせて頂きました。
お米は、当日ダナン市内のお米屋さんの前に私たちの専用車を止めて購入し、在宅訪問時にVAVAの副会長と参加者の皆様のいる前で差し上げました。
誠にありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。

愛のベトナムさわやか支援隊会長:宮尾和宏
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ファム・ティ・ナンさん(中央)のお宅に伺いました。
   ナンさんは、1943年生まれ。全く両目が見えないワケではありませんが、「近くは少し、遠くはまるで見えない」そうです。

 ご主人は1969年に、南ベトナム政府軍に入隊し、アメリカ軍砲兵隊に配属されたそうです。現在家族には、ベトナム航空局から補助金が出ていると言いますが、この補助金の構図は、私は初めて知りました。調べてみる価値はありそうです。

ナンさんは、結婚して7人の子どもを設けたそうですが、3人のお子さんが亡くなっています。盲目に近いナンさんから、ご家族の履歴の話を聞き出すのは、難儀しました。質問するたびに、子供の数が増えてきて、大変でした。

どうやら、産んだ子供の順序は次のようだったようです。
長女(既婚) 次女(パーキンソン病が出ている) 長男 次男  三男 四男 三女(灰色がすでに故人)
(2010年6月11日)
結婚しているのは長女だけのようです。「パーキンソン病が出ている」というのは、次女のようです。「姉は帰ってこない・・」と言う「姉」も次女ではないかと推測しました。現在生き残っている4人も病気を持っています。

家族に白血病の方がいらしたようですが、聞き取り調査ではないので、そこで止めましたが、果たして、下に書いた三女(故人)ではないでしょうか。

三女のグエン・ティ・ハー(Nguyen Thi Ha)さん:1973年生まれ。「体全体が黒かったんです。普通に生活していましたが、倒れてから25日でなくなりました(2007年?)。足、腿(もも)、背中、は黒く毛が生えていましたよ。精神異常もありました」と、母は淡々と話しました。
今回の訪問時では、お母さんのナンさんと四男のグエン・タン・タイン(Nguyen Tan Thanh1971年生ま。未婚)さんにお会いしましたが、三男のミンさんは8月訪問時に仕事で出ておりましたので、6月訪問時に書き取ったメモをここに掲載します。

ミ「88年軍隊に入り、アン・ケ(An Khe・ザライ省)に駐屯しました。ここも枯れ葉剤が撒かれた所です。今は、足がしびれます。足が麻痺しています。右足の筋肉は硬いです。左足は弱っています。歩くと倒れます。支える力がないのです。睡眠は2時間しかとれません。何錠薬を飲んでも効き目はありません。タバコ1日3本くらい吸います」
北「たばこは、禁煙できますか?他の病気を進めてしまいますからね・・・」
ミ「はい、頑張ってみます。」

自分でやりたい事は何ですかと聞きましたら、「元気になって仕事をしたいです」・・・実感がこもっていました。普通なら死に物狂いで働いている年代ですものね。

手当は1ヶ月10万ドン。3ヶ月30万ドン。月450円です。インフレのベトナムでは、雀の涙にもなりません。


四男のミンさんの話です。これも6月の訪問時の話です。
「頭が痛いです。時々倒れます。それで、そのまま立てなくなります。1回倒れると2~3日人事不省が続くこともあります。これは気候に無関係で起こります。常用薬を毎日服用しています。仕事中にこれが起ると、怖くて仕事ができなくなります。座る時も転びます。だから、怖くてなかなか歩けません。この1年間、この症状に苦しんできました」

30分話しを聞いていましたが、最後に失禁症がみられました。健常の男性なら、とてもそういう年齢ではないのですが。

しかし、四男のタインさんは、きれい好きなんです。朝5時半頃起きて掃除するそうです。私たちがお宅に伺った8月16日、綺麗に床も履かれ、整理整頓がされていました。6月の時も、いきなりお邪魔したのですが、塵一つ落ちていませんでした。人が来ようが来まいが、掃き清めるというベトナム古来の伝統を実行するタインさんの心の美しさに感心しました。

ナンさんとの簡単なやりとりです(8月訪問時)。
北「今でも,余り目が見えませんか?」
ナ「よくみえませんよ
北「ころびませんか?」
ナ「いえ、ころびません、慣れているんで」と、苦笑。
北「朝は、いつも何時に起きるんですか?」
ナ「5時半か6時です
北「何時におやすみになりますか?」
ナ「9時とか10時とか11時とか、寝たい時に寝ますよ
北「お母さんは働き者ですね」
ナ「ご飯を作ったりしなくてはなりませんから・・・前は豚を飼っていたのですが、今は飼っていません
北「豚は死んじゃったんですか
ナ「そう、伝染病にかかってね・・・だから、今は飼えませんよ・・・怖くてね・・
北「今年死んだんですか? 豚は・・」
ナ「はい、今年です。耳が青くなる青耳病で死にましたよ」と、悲しそうな表情になった。

※豚の「青耳病」:豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)と呼ばれ、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス感染によるブタの感染症。日本では家畜伝染病予防法のもとで届出が求められている伝染病。対象動物は豚といのしし。豚の耳・鼻などが酸素不足によるチアノーゼ現象で青くなる場合があるため、「青耳病」という俗称で知られる。接触感染および空気感染により伝播し、伝播力は強い。
06年から07年にかけて、中国26の行政地区で猛威を振るった。06年、40万頭が死亡したが、中国当局は、死亡した豚の組織サンプルを国際組織に提供することを拒否。このため近隣国への感染が憂慮される、と当時の国外のメディアは報じていた。
珍しく参加者全員がそろった記念写真:ダナン市
四男タインさんとのやりとりです。
北「今、体調はどうですか?」
タ「こういう暑い日は、疲れやすいです。手足がだるいです
北「最近は、転んだりしませんか?」
タ「はい、やはりしょっちゅう転んでいます
北「今日は、日本の静岡という所からきました。こちらの4人は、オーストラリアからきました」
タ「遠いところからありがとうございました
北「若い人を連れてきましたよ」
タインさんニコニコ笑う。
北「今は、何で生活をされているんですか?」
タ「貧困者のための助成金で暮らしています
北「1ヶ月どのくらい戴いているんですか?」
タ「枯れ葉剤の助成金は1ヶ月10万ドン。3ヶ月に1回もらいます。貧困者助成金は、母は1ヶ月24万ドン、です
北「そのお金の中で生活しているわけですか?」
タ「そのお金では足りません
北「生活の中で一番かかるお金は何ですか?」
タ「薬は、保険が少し使えるのですが・・・生活費が大変です
北「電気代も払わなくてはなりませんね?」
タ「もちろんです
北「電気代って、どのくらいかかりますか?」
タ「月6万ドンかかります。節約しても、そのくらいかかります。多い月は10万ドンかかります
北「ここは、水は井戸ですか?」
タ「はい、ここは井戸ですので、水道代はかかりません
北「今、一番困っていることは何ですか?」
タ「病気です
北「足は、今しびれてませんか?」
タ「しびれていますよ

北「お兄さん(NguyenThanh Minh)は、今日、何をしに行きましたか?」
タ「土木関係の仕事です

北「どうか、できるだけ健康でいられるように努めてください」
タ「ありがとうございます。わざわざ来て下さりありがとうございました
北「健康であることをお祈りしています。」

三島ワイズメンズクラブからのお米と金一封を贈呈し、下手な歌を合唱しました。そして、記念撮影をし、皆が手をぎゅっと握って握手をかわして失礼しました。


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こういう弱者とどう向き合ったらいいのか、私にはすばらしい回答が見つかりません。ベトナムのことですから、このお宅に私たちを案内してくれた枯れ葉剤被害者協会以外に全く援助者がいないわけではないでしょう。しかし、金銭的な援助と言っても、供与と貸与では全く違います。受け取る側からすれば、供与は楽ですが、長く続くものではないでしょう。貸与は、少なくとも元本はいつかは返さなくてはなりません。

金銭的な援助をしても、ナンさんの目が良くなるわけではありません。あるいは、二人の息子さんの転倒が無くなるものでもありません。

自立できるような何かの支えをつくってあげる、そういう支援にゆきつくのでしょうか?  少なくとも社会の隅に閉じ込めてしまうような無関心さは許せません。連帯の絆を太くしていく・・・まずそこから始まるのでしょうか。そんなきっかけになる訪問と贈呈であれば・・と思います。


それにしても、盲目に近い方の表情を読むのは難しいです。最近、日本でも表情の豊かな方が減っているように思いますが、それは社会的な閉塞感がそうさせているのでしょうか。面と向かって話をする時に、言葉以外にもさまざまな情報が得られます。この”アナログ”の情報から、言葉で表現されていない部分を理解するわけですが、視力が落ちている分、表情の豊かさが減ります。自分が辛い思いをしているときには、相手のネガティブな表情をしっかり読み取ることができます。逆に,自分が幸せな状態であれば、相手のネガティブな表情はなかなか読み取れません。

もう少し、相手の表情を読み取れるようにしたいと思います。(つづく)Posted by Picasa

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